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高松高等裁判所 平成5年(行コ)8号 判決

控訴人

小川満幸

右訴訟代理人弁護士

林伸豪

川真田正憲

被控訴人

徳島県知事

圓藤寿穂

右訴訟代理人弁護士

田中達也

田中浩三

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人に対してなした平成三年九月二五日付徳島県情報公開条例に基づく原判決添付別紙公文書目録(以下「別紙公文書目録」という。)一記載の文書の非公開決定処分を取り消す。

3  被控訴人が控訴人に対してなした平成三年九月二五日付徳島県情報公開条例に基づく別紙公文書目録二記載の文書の非公開決定処分を取り消す。

4  被控訴人が控訴人に対してなした平成三年九月二七日付徳島県情報公開条例に基づく別紙公文書目録三記載の文書の非公開決定処分を取り消す。

5  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二被控訴人

主文同旨。

第二事案の概要

本件の事案の概要は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実及び理由の「第二 事案の概要」記載のとおりであり、証拠関係は原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

一原判決二枚目表七行目の「文書非公開処分」を「公文書非公開決定処分」と、同枚目裏一〇行目の「処分をした」を「決定をした(甲第一ないし第四号証、原審における控訴人本人尋問の結果)」と、同三枚目表一行目の「県の機関内部」を「県(以下、徳島県を単に「県」ともいう。)の機関内部」と改め、同二行目の「団体の機関」の次に「(以下「国等の機関」という。)」を、同三行目の「調査研究等」の次に「(以下、一括して「審議等」ともいう。)」を加え、同枚目裏五行目の「立木トラストや」を「立木トラスト等の反対運動や投機的な」と改め、同四枚目裏六行目の「団体」の次に「(国及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)」を、同五枚目裏七行目の「指示、」の次に「依頼、」を加える。

二当審における主張

1  控訴人

(一) 本件開発には森林法の林地開発許可が必要であるところ、同開発許可の許可基準については、平成二年六月一一日付の林野庁長官通達(以下、単に「通達」という。)により、従来の基準(以下「旧基準」という。)が変更された(以下、変更後の基準を「新基準」という。)。本件公文書は、本件開発が旧基準に基づいて開発されることを前提とするものであるところ、開発業者は、旧基準が適用される時期までに同開発許可申請をしなかった。そのため、本件公文書にかかる開発計画は、旧基準での開発許可が得られないことが確定した。したがって、本件公文書は、県の機関内でかって審議の対象となったことのある文書であるが、現在審議中のものではない、目的を終えたいわば歴史的文書に該当するので、条例六条一項三号の非公開文書に該当しない。

(二) 公文書を非公開にするか否かについては、公開を求める当該県民の立場・必要性をも斟酌した公開すべき必要性・利益性と非公開にすべき必要性とを比較考量して判断すべきであるところ、本件開発は地元住民に少なからず環境の変化に影響を与えるものであるから、本件開発の開発許可前に地元住民に必要な検討をさせるため、本件公文書を公開すべき必要性がある。

2  被控訴人

(一) 控訴人の主張(一)は争う。森林法の林地開発許可の許可基準が変更されたとしても、本件開発は、新基準に適合するように変更が加えられて、県の機関内で現在審議が継続されており、本件公文書は、機関内部の協議検討を経て、今後修正していかねばならない文書であるから、条例六条一項三号の非公開文書に該当する。

(二) 控訴人の主張(二)は争う。公文書を非公開にするか否かを判断するについては、県民一般に公開されることを考慮して行うべきものであって、公開を求める個々の県民の立場・必要性を斟酌することは、条例上予定されていない。

第三争点に対する判断

争点に対する判断は、次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決事実及び理由の「第三 争点に対する判断」及び「第四 結論」記載のとおりであるから、これを引用する。

一原判決六枚目表八行目の「第八号証、乙第二ないし第五号証」を「乙第四ないし第六号証、第八ないし第一〇号証」と、同七枚目裏二行目の「についての担当部課と事前に協議」を「に関連した担当部課と個別に事前協議」と、同六行目の「事前協議を行うための下準備書が提出された段階」を「事前協議の段階」と改め、同八枚目表四行目の「本件開発」の次に「に関する地元説明会等」を加え、同枚目裏七行目の「開発計画」を「本件開発計画」と、同八行目及び同九行目裏一行目の「下準備として」を「ために」と改め、同八枚目裏一一行目の「の下準備」を削除し、同九枚目裏二行目の「各文書は」の次に「、県治山林道課関係の公文書で」を加え、同三行目の「運用細則」を「通達」と改め、同四行目の「協議調整が」の次に「必要と」を加え、同七行目及び同八行目の「県」を「県農林水産部」と、同七行目及び同八行目の「国」を「林野庁治山課」と、同一一行目冒頭の「開発」を「本件開発」と改める。

二1  原判決一〇枚目表九行目の「解釈運用基準」の次に「(乙第一号証)」を加え、同一〇行目の「規定する」を「自ら宣明する」と、同枚目裏七行目の「未成熟」を「未成熟、不正確」と、同一一枚目表一行目の「開発許可」を「開発協議の承認」と、同四行目の「当該審議」から同七行目の「誤解を招く」までを「県民に対して本件開発が既にほぼ確定したかのような印象を与えて無用な混乱、誤解を招き、開発予定地域内の投機的な土地買占めによる地価高騰、あるいは本件開発の反対者による立木トラスト等の反対運動や地権者に対する圧力等が発生して、当該審議等もしくは将来の同種の審議等にかかる意思形成自体に著しい支障を生じる」と改める。

2  同一一枚目表八行目の「この点」から同枚目裏一一行目末尾までを、次のとおり改める。

(一) 控訴人は、本件公文書が現在審議中のものではない、目的を終えたいわば歴史的文書に該当する文書であるから、条例六条一項三号の非公開文書に該当しないと主張する。

しかしながら、右に述べたところから明らかなように、現在審議等の対象になっていない公文書であっても、かって県の機関内部において審議等の対象とされた公文書は、条例六条一項三号のいう「県の機関内部における審議等に関する情報」に該当すると解するのが相当であって、これを除外すべき格別の事由は見当たらない(却って、本件においては、本件公文書は今後の審議等において活用される可能性があることが、弁論の全趣旨により窺える。)から、控訴人の右主張は採用できない。

(二)  控訴人は、また、公文書を非公開にするか否かについては、公開を求める当該県民の立場・必要性をも斟酌した公開すべき必要性・利益性と非公開にすべき必要性とを比較考量して判断すべきであると主張する。

しかしながら、徳島県の公文書に対する県民の公開請求権は、条例によって認められた権利であるから、その権利の内容は条例によって定められることになる。しかして、いかなる範囲の公文書を公開し、あるいは非公開とするかは、県民に対する正当な知る権利の確保という条例のもつ立法政策によるものであるから、条例は、県民全体を対象とし、県民一般の利害を踏まえて、当該公文書公開の必要性と非公開の必要性・公益性とを比較考量したうえで、非公開文書の範囲を定めているものと解される。そうした観点に立脚して、条例は、六条一項において、同項各号に該当する公文書を非公開文書としているものであって、それ以上に、条例は、同項各号に該当する公文書であっても、個々の県民につき公開すべき利害ないし必要性をも個別に比較考量して公開・非公開を決定すべき旨の規定を置いているものではない。したがって、控訴人の右主張は採用することができない。

3  同一一枚目裏末行目の「また、原告は」を「(三) 控訴人は、さらに」と、同一二枚目表六行目の「情報の具体性」を「情報のもつ具体性ないし確実性」と、同九行目の「原告の主張はいずれも」を「控訴人の右主張は」と改める。

第四結論

よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 砂山一郎 裁判官 一志泰滋 裁判官 渡邉左千夫)

別紙公文書目録

一① 開発行為の許可基準等の改正に伴う経過措置該当事案について

(協議)県農林水産部長から林野庁治山課長あて

治第四一三号 平成二年一二月三日付

② 改正許可基準等の運用に当たっての留意事項について

(回答)林野庁治山課長から県農林水産部長あて二―二七

平成二年一二月一〇日付

二 平成二〜三年瀬戸町日出湾リゾート開発事前協議関係書類

三 瀬戸町日出湾リゾート開発に関する

① 開発行為協議書

② 鳴門ハーバービューCC

平成二年三月提出「開発協議書」に対する意見と対応

③ (仮称)鳴門ハーバービューカントリークラブ事業計画概要書

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